おひとりさまの叔父が亡くなったあと、相続手続きが終わるまでに、1年半かかりました。遺言書がなかったからです。
あのとき紙が1枚あれば、親族7人であんなに時間をかけずに済んだのかもしれない。そう思って、遺言書について調べてみると「公正証書遺言」という言葉に出会いました。そしてそこには、費用よりも先につまずくところがありました。それは「証人」です。
叔父の相続についてはこちら。
公正証書遺言は公証役場でつくる遺言書
公正証書遺言は、公証役場で公証人につくってもらう遺言書です。
自分で紙に書くのではなく、公証人に内容を伝えて、公証人が法律に沿った文章にまとめます。そのとき証人2人に立ち会ってもらい、本人と証人が署名して完成します。
できあがった遺言書の原本は、公証役場に保管されます。手元に残るのは正本と謄本です。
原本、正本、謄本のちがい
- 原本 本人と証人、公証人が署名押印した本体。公証役場に保管されます。本人でも持ち帰れません
- 正本 原本の写しで、原本と同じ効力を持ちます。相続の手続きに使うのはこちらです
- 謄本 内容を証明する写し。手元に置いておく控えです
ふつうは正本1通と謄本1通を受け取ります。原本が役場にあるので、なくす心配も、書き換えられる心配もありません。
もうひとつ大きいのが、家庭裁判所の検認がいらないことです。自筆の遺言書だと、亡くなったあとに家庭裁判所で検認という手続きをする必要があります。残された人が申立てをして、戸籍を集めて、期日を待たなければなりませんが、公正証書ならそれが省けます。
2025年10月から、ウェブ会議でも作成できるようになりました。体調や距離の問題で役場まで行けない人でも、公証人が相当と認めればオンラインで手続きできます。証人の立ち会いもウェブ会議で参加できます。
しゅん叔父さん作りたかっただろうな



几帳面な人だったからね



とにかく急すぎたよな



準備って大事ね
自筆証書遺言との比較
遺言書にはいくつか種類がありますが、実際に選ぶことになるのは公正証書遺言か自筆証書遺言のどちらかです。ちがいはこうなっていました。
| 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | |
|---|---|---|
| つくる人 | 公証人 | 自分 |
| 証人 | 2人必要 | 不要 |
| 費用 | 財産の額による | ほぼ0円 |
| 保管場所 | 公証役場(原本) | 自分で決める |
| 検認 | 不要 | 必要(法務局に預ければ不要) |
| 形式の不備 | まず起きない | 起きやすい |
| 見つけてもらえるか | 検索できる | 気づかれない場合がある |
手軽さと確実さのトレードオフです。自筆はその日のうちに書けますが、日付の書き方ひとつで無効になることがあります。公正証書は手間もお金もかかるかわりに、そこでつまずきません。
自筆証書遺言書保管制度
1件3,900円の手数料で法務局で預かってもらえる制度です。預けておけば検認がいらなくなり、亡くなったあとに相続人へ通知が届くようにもできます。
ただし法務局が見てくれるのは形式だけです。日付や署名がそろっているかは確認してくれますが、書いてある中身が実現できる内容かどうかまでは判断しません。形は整っているのに使えない、ということが起こりえます。
公正証書遺言にかかる費用
公証人の手数料は、遺言で渡す財産の価額で決まります。
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 13,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 20,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 26,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 33,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 49,000円 |
もうひとつ、遺言加算というものがあります。これは遺言をつくるときだけ上乗せされる手数料で、ぜんぶの財産が1億円以下なら13,000円です。財産の額にかかわらず定額でかかります。
正本と謄本は書面なら1枚300円×枚数です。枚数は遺言の内容によって前後します。電子データでの受け取りもできますが、正本・謄本それぞれ1通2,500円で合計5,000円になるので、紙より高くつく場合もあります。
ここまでを、実際の金額にあてはめるとこうなります。
2人に分けて遺す場合の目安
ここでの300万円と600万円は、計算のしかたを見るための仮の設定です。遺言書は4枚として計算しています。
| 項目 | 300万円ずつ遺す場合 | 600万円ずつ遺す場合 |
|---|---|---|
| 手数料(1人目) | 13,000円 | 20,000円 |
| 手数料(2人目) | 13,000円 | 20,000円 |
| 遺言加算 | 13,000円 | 13,000円 |
| 正本・謄本の交付(書面8枚ぶん) | 2,400円 | 2,400円 |
| 合計 | 41,400円 | 55,400円 |
300万円は「200万円超〜500万円以下」、600万円は「500万円超〜1,000万円以下」の欄にあてはまります。これを渡す相手の人数ぶん計算して足します。 600万円ずつの場合に、合計の1,200万円を表にあてはめて26,000円、とはなりません。ここが間違えやすいところです。
公証人に自宅や病院まで来てもらう場合は、手数料が1.5倍になり、日当が1日20,000円(4時間以内なら10,000円)と交通費の実費が加わります。
この金額は2025年10月1日の改正後のものです。古い金額のまま更新されていない解説を見かけるので、相談前に公証役場で確認してください。



これなら俺にも出せるな



うん、私にも検討の余地がある



もっと何十万円もすると思ってたよ



私も!確認してよかった〜
手続きの流れ
書類を先にそろえる必要はありません。相談が先です。何をそろえるかは、渡す相手や不動産の有無で変わるので、公証人から案内をもらってから動くほうが無駄がありません。
- 渡したい財産と、渡す相手を整理する 正式な書類はいりません。手元のメモで十分です
- 公証役場に相談する 電話、メール、窓口へ出向く、どの方法でもかまいません。窓口で相談する場合も予約が必要なので、まずは連絡から。全国どこの役場でもかまいません。この段階は手ぶらで大丈夫です
- 必要書類を案内してもらう 本人の印鑑証明書、戸籍謄本、渡す相手の住民票、不動産があれば登記事項証明書と固定資産評価証明書。ここで必要なものが確定します
- 書類をそろえて公証人に渡す 持参、郵送、メール添付のどれでも受けつけている役場が多いです。どの方法がいいかは相談のときに聞いておくと確実です
- 公証人が案文をつくる 何度か直しが入ります
- 証人2人を決める 後述します
- 作成日に役場へ行く ウェブ会議での作成も選べます
- 正本と謄本を受け取る 原本は役場に残ります
公証人は戸籍謄本や登記事項証明書を見ないと、相続人の確認も手数料の計算もできません。だから書類は案文をつくる段階で必要になります。逆に言えば、最初の一本の電話は何も持たずにかけられます。
相談から完成まで、早くて2週間、書類集めや案文の直しが入ると1か月ほどです。
証人2人という壁
調べていて一番つまずいたのが、ここでした。
証人には、なれない人が決まっています。
- 未成年者
- 推定相続人(相続することになる人)と受遺者(遺言で財産を受け取る人)
- その配偶者と直系血族(親、子、孫)
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、公証役場の書記や使用人
これを自分にあてはめてみると、私の子ども2人は推定相続人なので証人になれません。孫たちも直系血族なので同じくだめです。
身近な人ほど証人になれない、ということが起こります。
一方で、しゅんは私の推定相続人ではないので、私の証人になれます。ただしこれは、私がしゅんに何も遺さない場合の話です。遺すと決めた相手は受遺者になるので、証人にはなれません。



姉のは俺が引き受けるよ



そうね、お願いするかも



もうひとりは見つかりそう?



うっ…どうだろう…
証人を頼める人が身近にいない場合、方法は3つあります。
①公証役場に紹介してもらう 多くの役場で紹介してくれます。1人あたり5,000円から10,000円ほどの謝礼がかかりますが、守秘義務のある人が来てくれるので安心です。
②専門家に依頼する 行政書士や司法書士に案文づくりから頼むと、証人も引き受けてくれることが多いです。費用はかかりますが、段取りをまるごとお願いできます。
③友人や知人に頼む 費用はかかりませんが、遺言の中身をその人に知られます。誰に何を遺すかを読み上げる場に立ち会ってもらうので、そこを受け入れられるかどうかです。
おひとりさまなら、公証役場での紹介が現実的かもしれませんね。
おひとりさまが公正証書を選ぶ理由
公正証書遺言のいちばんの強みは、見つけてもらえることです。
公証役場には遺言検索システムがあって、亡くなった人の遺言が登録されているかどうかを照会できます。この照会は、全国どこの公証役場でもできます。 遺言をつくった役場まで出向く必要はありません。
叔父のときも、従兄弟が調べてくれました。叔父が住んでいたのとは別の県で照会して、遺言検索照会結果通知書という書類が届いています。そこには、遺言は登録されていないと書かれていました。あわせて法務局にも照会して、遺言書保管事実証明書を取り寄せています。こちらも全国どこの法務局でも請求できて、郵送でも受けつけてもらえます。
遠くに住んでいた親族の遺言でも、確認は自分の最寄りでできる。 手続きに追われている人にとって、これはずいぶん助かることだと思います。
私の手元にもその2枚の写しがあります。遺言がないことを証明するのにも書類がいるのだと、そのとき初めて知りました。
裏を返せば、公正証書にしておけば、この照会で必ず見つかるということです。自筆の遺言書を家のどこかにしまっておいても、気づかれなければないのと同じになってしまう。おひとりさまの場合、家の中を隅々まで探してくれる人がいるとは限りません。
検認がいらないことも、残された人にとっては大きいと思います。手続きを引き受けてくれるのが、日ごろ行き来のない親族や、専門家かもしれない。その人の手間をひとつ減らせます。
まとめ
費用は、遺す財産の額で決まります。何十万円もかかると思いこんでいたので、遺言加算まで入れても数万円におさまるとわかったときは、正直ほっとしました。手続きのほうも、最初の連絡は何も持たずにできて、相談から1か月ほど。思っていたほど遠い話ではありませんでした。
つまずくとすれば、やっぱり証人だと思います。そこは公証役場で紹介してもらう道があるので、相談のときに一緒に聞いてしまうのがよさそうです。
誰に何を遺すのか…まずはそこから考えていきたいと思います。



お金より証人のあてがないや



なかなか知り合いには頼めないよね



結局、紹介してもらうのが無難なのかな



かもね


