叔父が亡くなったあと、相続の手続きが終わるまでに1年半かかりました。その入り口で、親族のひとりが公証役場と法務局を回り、2通の紙を持ち帰っています。
どちらにも書かれていたのは、「遺言書はありませんでした」ということでした。
遺言書がないことを、公の機関が証明してくれる。そういう書類があるのだと、そのとき初めて知りました。手元にあるその2通を見ながら、遺言書の有無を調べる方法を整理してみます。
ひよりないことの証明書、って不思議だったわ



あれでようやくスタートした感じだったな
遺言書の有無は2か所で調べられる
遺言書には、公証役場で作る公正証書遺言と、自分で書く自筆証書遺言があります。それぞれ「あるかどうか」を調べることができます。
| 公正証書遺言 | 自筆証書遺言(保管制度に預けたもの) | |
|---|---|---|
| 調べる場所 | 全国どこの公証役場でも | 全国どこの法務局(遺言書保管所)でも |
| 手数料 | 無料 | 1通800円 |
| 郵送 | 原則は窓口 | 郵送できる |
| 予約 | 出向く前に電話で確認しておくと確実 | 窓口はすべて予約制。郵送なら予約不要 |
| 検索できる遺言書 | 平成元年以降に作られたもの | 2020年7月10日以降に預けられたもの |
どちらも、検索や証明書の交付を請求できるのは遺言者が亡くなったあとです。生きているあいだは、本人以外は調べられません。
必要な書類は、次の3点です。
- 遺言者が亡くなったことがわかる戸籍(除籍)謄本
- 請求する人が相続人だとわかる戸籍謄本
- 本人確認の書類
このうち本人確認の書類と、申込みの用紙の用意のしかたが、2か所で少し違います。
| 公証役場 | 法務局 | |
|---|---|---|
| 本人確認 | 顔写真つきの公的な身分証明書。または実印と印鑑登録証明書(発行後3か月以内) | 請求人の住民票の写し(作成後3か月以内) |
| 申込みの用紙 | 遺言検索の申出書。窓口の案内に従って、その場で記入する | 遺言書保管事実証明書の交付請求書。法務省のサイトから入手して記入する |
| そのほか | なし | 800円分の収入印紙。郵送するなら返信用封筒 |
公証役場は、必要な書類を持って行けば、申出書はその場で書けます。法務局は、請求書を先に用意して出す形です。窓口での手続きそのものは、15分から30分ほどとされています。
公証役場の遺言検索システムで調べる
公正証書遺言は、日本公証人連合会が管理する遺言情報管理システムに登録されています。全国どこの公証役場からでも検索でき、しかも申出は無料です。
叔父の場合の結果が、この1枚でした。


「遺言情報管理システムにより検索しましたが、令和05年12月末日現在、遺言公正証書は見当たりませんでした」。
この紙で目を引いたのが、いちばん下の但し書きでした。遺言検索システムに記録があるのは平成元年以降に作られた遺言だけで、それより前のものは載っていないと、はっきり書いてあります。昭和のうちに作った遺言は、この方法では出てきません。
では昭和の遺言はどうなっているのかというと、なくなったわけではなく、作った公証役場に原本が残っています。 公正証書の保存期間は規則で20年と定められていますが、遺言の公正証書は特別に扱われていて、遺言者の死亡後50年、証書作成後140年、または遺言者の生後170年という長さで保存する取扱いだと、日本公証人連合会が説明しています。
つまり、昭和に作った遺言も、まず残っている。ただし全国をまとめて検索できないので、どこの役場で作ったか心当たりがなければ辿り着けません。逆に、心当たりがあるなら、その役場に直接問い合わせれば確認できます。
また、公正証書遺言を作ると、本人の手元には正本と謄本が渡されます。ですから、家の中にその控えが残っていることも多いのです。原本は役場、控えは自宅。この2本立てになっているのが、公正証書遺言の探しやすさでもあります。
検索して見つかった場合は、その遺言を保管している公証役場がわかります。中身を知りたいときは、そこへ謄本を請求する流れになります。



無料なのは助かるな



あとは、どこで作ったか心当たりがあるかどうかね
法務局の遺言書保管事実証明書で確認する
自筆証書遺言は自宅で保管されることが多いのですが、2020年7月に始まった保管制度を使うと、法務局が原本を預かってくれます。預けたかどうかを調べるのが、遺言書保管事実証明書です。


実物を見ると、請求書がそのまま証明書になる様式でした。上半分が請求する人の欄で、いちばん上に「請求人の資格 1:相続人/2:相続人以外」。下半分が遺言者の欄で、姓名のフリガナと漢字、そして生年月日を書くようになっています。探す側が、故人の生年月日を正確に知っている必要があります。
そして下の一行が、この書類の性格をよく表しています。
上記の遺言者の申請に係る遺言書が遺言書保管所に保管されていないことを証明する。
預かっていない、という事実にもきちんと証明書が出る。これが「ないことの証明」です。
なお、保管されていた場合は、内容を確認するために遺言書情報証明書(1通1,400円)を請求します。モニターでの閲覧は1,400円、原本の閲覧は1,700円です。
2か所で調べても見つけられない遺言書
大事なのは、2か所とも「ありません」だったとしても、遺言書が存在しないと確定したわけではないということです。この方法では見つからないものがあります。
- 自宅や貸金庫にしまってある自筆証書遺言(保管制度を使っていないもの)
- 平成元年より前に作られた公正証書遺言(役場には残っているが、検索では出てこない)
- 保管制度が始まる2020年7月より前に書かれ、そのまま手元にある自筆証書遺言
結局、家の中を探すという作業は残ります。叔父の家は物が多く、遺品整理の過程で引き出しも棚もひととおり見ることになりました。それで何も出てこなかったので、2通の証明書と合わせて、遺言書はなかったという結論になっています。
自宅などから遺言書が見つかったら検認が必要
家の中から手書きの遺言書が出てきたら、封を開けずに家庭裁判所へ持っていきます。検認という手続きです。
検認は、遺言書がどんな状態だったかを家庭裁判所に記録してもらうものです。あとから書き換えられたり、偽物だと言われたりしないようにするためのもので、遺言の内容が有効かどうかを判断するものではありません。
封がしてある遺言書を家庭裁判所の外で開けてしまうと、5万円以下の過料の対象になります。過料は行政上のペナルティで、前科がつくものではありません。開けてしまっても、遺言書そのものが無効になるわけでもありません。 書き方の要件を満たしていれば効力はそのままです。ただし、開けたあとでも検認は省略できず、けっきょく家庭裁判所へ持っていくことになります。
公正証書遺言と、法務局に預けてあった自筆証書遺言は、検認がいりません。
遺言書がないことを証明しておく理由
手元にある2通は、どちらも「ありませんでした」という結果です。それでも、わざわざ発行してもらう意味があります。
遺産分割の話し合いは、遺言書がないことが前提になります。あとから出てきたら、決めたことがひっくり返る。だから最初に、公の記録として押さえておく。結局はその順番が相続をスムーズに進めることにつながるのだと思いました。
ここまでは、遺言書を探す側の話です。残す側にできることもあります。
遺言書を作ったこと自体をどこかに書き残しておけば、探す人はまっすぐ役場へ向かえます。エンディングノートの1行が、そのまま道しるべになります。


まとめ
遺言書の有無を調べる方法を整理すると、次のようになります。
- 公正証書遺言は公証役場で検索できる。全国どこでも可能で、無料
- 自筆証書遺言は、保管制度を使っていれば法務局で確認できる。1通800円、郵送もでき、郵送なら予約もいらない
- どちらも請求できるのは亡くなったあと。戸籍と本人確認の書類が必要
- 記録には限界がある。公証役場は平成元年以降、法務局は2020年7月以降
- 昭和に作られた公正証書遺言も原本は役場に残っている。ただし作った役場に心当たりが必要
- 自宅や貸金庫などで保管している自筆証書遺言は、どちらの方法でも見つからない。見つけたら開封せずに検認へ
「ないこと」を証明してもらう書類が用意されているという事実は、遺言書を残す側から見ると心強いものでした。作れば、記録として残る。残しておけば、いつか誰かが照会したときに、ちゃんと引き当ててもらえます。



俺の場合、どうなるだろうな…



遺言書作ったことを伝えておける人がいるといいね



ちゃんと行動してくれる人…だな



そうね、そこが大切ね
焦らず、放置せず。遺言書の有無を調べる方法についての解説編でした。



